八発白中

はてなブログに引越しました。

リードエンジニアが育休を6ヶ月取ることにした話

先月子供が産まれました。この記事は育休を取得しようと思った経緯を書き綴ったものです。

妻の記事はこちら。

meymao.hatenablog.com

ことの始まり

2019年1月。妻は妊娠7ヶ月を迎えていた。

うちは夫婦共働きで二人共30代の中堅会社員。子供が産まれても働き続けたいという希望はある。けれど初めての子であるために働きながら子育てをするとはどのようなものかという実感が薄い。Web上には育児の大変さを吐露する書き込みはいくらでもあるが、それらは隣町の火事程度にしか思えず漠然とした不安しかなかった。

夫婦の両母親には出産予定日を伝えてある。産後に手伝いに来てくれないかという依頼を伝えるためである。しかし二人とも仕事をしているという都合や、遠方 (福岡) に住んでいるという事情もありなかなか思い切りのよい返事は得られない。

妻から育休の話をされたのはその頃だった。

――育休を取る予定はある?

育休は誰でも取れる

僕が働いているのは社員20人にも満たない小さなスタートアップ。入社時に育児休業の制度についての案内はない。メルカリとかもっと大きい企業で働いていればあるいは育休も考えたかもしれない。

ここで自分の無知を晒しているのだが、育児休業は会社の制度ではない。国の法律 *1 で定められたものである。つまりは勤め先の大小、制度に関わらず育児休業を取得することができる。さらには雇用主が従業員の育休を拒否することはできない *2。また、育休取得を理由に解雇などの不当な扱いをしてはならないことになっている *3

このことを僕は妻から教えられた。ということは自分も育休を取得することができるのではないか?

育休を取るか取らないか

ここで初めて育休を取るか取らないかという問題と向き合うこととなった。

家族のことのみを考えるなら当然ながら育休を取るのが正しい。懸念はやはり会社のことだ。

会社では僕はリードエンジニアという役割を与えられている。マネージャーが別でいるわけでもないので、マネージャー的な役割も一部で兼ねている。主に開発進行と技術選定、コード品質管理、メンバーの成長を責務としている。

育休を取るに当たってさらに後ろめたい要素としては、担当のプロダクトが自分が一人でスクラッチから書いたものであり、僕しか見ていない箇所もそれなりにあることだ。使っているライブラリ群も僕が作ったオープンソースプロダクトを大胆に使っている。もし育休を取得するならチームメンバーの負担は大きなものになるだろう。

チームのメンバーは5人と小規模だが、翌月さらに2人の増員が予定されていた。そんな状況で2ヶ月後に育休を取っていいものだろうか。

半育休という選択肢

1ヶ月程度の育休ならば無理はないかもしれない。会社にも言いやすいだろう。けれど、生後1ヶ月といえば寝返りをうつこともできない無力な赤子である。その赤子を妻一人に任せて仕事をするというのは十分に育児の責務を果たしたと言えるのだろうか?

この難しい問題を数週間塩漬けにしたある日、また妻から有益なことを聞いた。妻の会社の同僚男性は半育休と言って育休取得中も週数回程度の勤務を続けていると言う。そんなことも可能なのか。

調べてみると、 育児休業中は給付金がもらえるのだが、この給付金は月に10日 (または80時間以内) の就労であれば支給される。これを利用して週2・3回や超時短での勤務をしても育児休業給付を受けることができる *4。俗に半育休と呼ばれているらしい。

育休を取ることの決定打となったのはこの情報だった。そして期間ももっと伸ばしてもいいのではないかと考え始めた。

どれくらい育休を取れば十分か

どうせ育休を取るなら不安がなくなるまで取ってしまいたい。どれくらい取れば十分なのだろうか。3ヶ月?半年?それとも1年?

結果的に自分は6ヶ月に決めた。3ヶ月では首もすわらない子を妻一人に託す心配が強く、とはいえ1年では長いような気がする。間を取って6ヶ月くらいがよかろうと決めた。

やや蛇足のような話だが、男性に限っては2回に分けて育休を取得することができる (パパ休暇)。我が家では共働きのため1歳で保育園にいれる予定でいるが、その入園準備に母親が忙殺されるという話も聞いたためにその時期に合わせて二度目の育休を取ることも考えている。

追記: パパ休暇は生後8週間以内に育休取得開始および終了したときという条件らしく僕の場合は該当しないよう。

社長に伝える

時は2月末。この時点で妻は妊娠8ヶ月で産休間近。翌々月出産と考えると育休の件もそろそろ会社に伝えねばなるまい。

取り急ぎSlackのDMで社長に育休を取りたい旨を相談という形で連絡した。

返事は、まだ制度を整えていなかったために社労士と相談してまとめたいので時間をくれとのことだった。

その後一ヶ月ほど待たされての面談である。

前述の通り、雇用主が従業員の育休を拒否することはできないし、育休取得を理由に不当な扱いをしてはならない。にも関わらずWeb上では育休取得に関しての雇用主との対立の話はときどき見られる。もし拒否されたらどうしようか。そう考えて面談のときには少し緊張していた。

面談では社長から育休の概要を伝えられ、期間や半育休、二度目の育休について相談をした。結果どれも希望通りになりそうだった。さらには社長は歓迎よりの態度だったことが安心感がある。半育休の話についても生後3ヶ月くらいは大変だろうからと言われた。さすが二児の父親だけあって育児についても言葉に思いやりがある。

もし育休を思うように取れないとなれば退職も考えようかと身を強張らせていただけに肩透かしを食らった形だが、会社への感謝は大きい。

チームに伝える

その後チームの定例ミーティングでも育休を取得する旨をメンバーに共有した。

育休開始の一ヶ月前にチームメンバーにも共有できたというのはメンバーの心づもりとしても引き継ぎのことを考えても非常によかったと思う。

メンバーからは頑張ってくださいという程度の当たり障りのない励まし以外は特にコメントはない。入社すぐのメンバー2名もいるし、どちらかというと不安が大きかったと思う。

引き継ぎをする

僕の中で、面談のときに社長に言われた言葉が心に残っていた。

「逆に深町さんがいないことでチームが強くなり、戻ってきたら一気に倍速で開発するような流れが最高だよね」

自分の育休による不在をそのように利点に転化させてしまう考えに感心し、チームを抜ける後ろめたさが和らいだように思う。これを機会にメンバーのリーダーシップや自律性を高め、担当範囲も拡げてしまおう。

そう考えた自分がやったことは、自分の頭の中にあった開発ロードマップを社内Wikiに転載することだった。立場上自分がやらなければならないことはチームが向くべき方向を決めることで、自分の不在で直ちに困る点もそこだろうと考えたのだ。

残したロードマップではさしあたって二ヶ月程度だとは思うが、半育休であるので続きは追って描いていけばよいだろう。

出産、そして育休へ

育休を取得した人は口を揃えて「働いているほうが楽」だという。本当だと思う。

試みに自分の一日のタイムスケジュールを見てみると、16時間 家事育児、5時間 睡眠、3時間 食事・風呂・その他という内容だった。

なぜこのような激務なのかというと、新生児は3時間おきにミルクをあげる必要がある。ミルクを作るのに10分、与えるのに20分、寝かしつけに10分〜60分程度がかかる。そうすると3時間サイクルといっても間は90分〜120分程度しかなく、その間に細切れに睡眠することになる。しかもサイクルの間であってもランダムにオムツが濡れたなどの理由で泣く。

うちの場合は夫婦二人共育休を取得しているため、夜間は交代で看ているので睡眠時間は5時間取れているが、訪問助産師の方に聞く限りこれは長いほうである。人によってはトイレに行く暇もないために膀胱炎になったという話も聞いた。いくら仕事が忙しくてもトイレに行く暇がないという話は聞いたこともない。ワンオペ育児のつらさは想像するだけで恐ろしい。

育休に対するさまざまな反応

人々に、育休を取得している、という話をすると驚かれることが多い。その中でも興味深かった事例を紹介したい。

会社のパーティでチームメンバーの奥さんが来られていたのだが、育休取得について話をしたときに「リーダーが (育休を) 取ってくれると他の人が取りやすくていいですね」と言っていた。全く考えてもみなかったが、自分はよい先例となったのだなとそのとき気付かされた。

また一ヶ月検診の際に、平日昼に父親も同行していることが珍しいらしく小児科の先生に「プログラマは時間の都合がつきやすいのかな?」などと訊かれて「今は育休中です」と言うと「育休!先進的な会社だね」と言われてなんと答えてよいのかわからなかった。育休は国の制度なので会社は関係ないのだけれど。

追記:

id:tomoya_edw なんで「自分も知らず」「後ろめたさを感じていた」事柄を知った後・自分が適用された後では、「会社は関係ない」などと言えるようになるのだろう。

自分の無知を棚に上げている、という意味であれば、相手は小児科医であり僕のような乳幼児の親と毎日顔を合わせる人間は自分よりは知識があろうという先入観からの純粋な驚きです。

自分の特殊な事例を幸運とも思わず厚顔であるという話であれば、そのように思われるのも致し方ないかなと思います。

もちろん「いい会社だね」と言われれば感謝から頷かざるを得ません。けれど法令で定められている以上、単に育休を取れるというだけで「先進的」というのは行き過ぎた賛辞ではないかなというのが僕の感じたことです。弊社も法令がなければ特別な対応をしようとは思わなかったでしょうし。

追記ここまで

おわりに

現代の家庭を持った男性は――自分もそうだが――やや同情さるべき面があると思う。

自分らの父親世代では男は仕事、女は家庭というのが当たり前であったために、現代の共働き家庭でどう振る舞うべきかというロールモデルに乏しい。社会では男性の家庭参加を推奨する一方で、古い価値観を持った人間はその態度を否定しようとしたり拙い男性の努力を鼻で笑う。その板挟みで常に腰が落ち着かないというのが正直な自分の感想である。

僕個人としては女性の社会参加を応援したい。というか今の労働力不足を考えれば女性にも働いてもらうしかこの国を支えることはできない。そして女性の社会進出と男性の家庭参加とは表裏一体である。

まだ大半を残した育休がどのような結末を迎えたとしても僕は自分の決断に後悔することはないだろう。我が子が、この国に生まれて本当に良かった、と思えるような国となるよう日々努力を続けたい。

#「迷い」と「決断」

りっすん×はてなブログ特別お題キャンペーン〜りっすんブログコンテスト2019「迷い」と「決断」〜
Sponsored by イーアイデム

*1:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=403AC0000000076

*2:第六条 育児休業申出があった場合における事業主の義務等

*3:第十条 不利益取扱いの禁止

*4:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/keizaisien3003.pdf

Emacsからlemに移行した

ずっとEmacsをメインエディタとしていましたが、先月lemに移行しました。

https://github.com/cxxxr/lem

lemはCommon Lispで書かれたエディタです。

そもそも自分はCommon Lisperだしlem使うほうが資産がCL界に降りてきて良いよな、という考えもあり使いたい気持ちはありました。

vi-modeさえまともに動けばまあ他の不便は我慢できるか、という状態だったので、vi-modeのバグを上げて修正と機能追加をしつつ使い始めてみました。

結果、なんとか使い続けられています。

この1ヶ月でEmacsを使ったのはSwift書くのに数日だけでした。さすがにシンタックスハイライトもないのはつらい。

活発な開発

lemには毎日コミットがあり「Common Lispプロジェクトでもっとも活発なのでは…?」と思うほど。

この1ヶ月でコミットは200を超えており、今日めでたくv1.4がリリースされました。

  • vi-modeの改善 by fukamachi & gos-k他
  • css-modeの追加 by myao
  • auto-save-modeに自動保存機能追加 by snmsts
  • ファイルエンコーディングエラーの対応 by snmsts
  • js-modeのオートインデント機能 by fukamachi
  • paredit-modeの部分実装 by gos-k & fukamachi

さらにリリース直後にrust-modeが追加されたりと勢いが衰えていない様子。

lemの良いところ

lemの良いところは起動が速いところです。

拡張も含めてダンプコアを吐くので起動が素のVim並に速いです。

起動が速いのでシェルと行ったり来たりできるため、必要ならシェルとの連携もできます。

たとえばQlotを使うには qlot exec lem とかやればlemのREPLがプロジェクトローカルなquicklispを参照します。

Common Lispで書かれているので拡張もContributeも楽です。

lemを使ってみませんか

特にCommon Lisperの方々、lemを使ってみませんか。

インストールはRoswellでできます。

ros install cxxxr/lem

インストールすると lem で起動できます。SLIMEは M-x slime で起動できます。

設定は ~/.lem/init.lisp に書きます。たとえばvi-modeを有効にするには、

(lem-vi-mode:vi-mode)

と書いておけば自動で有効になります。

僕の .lem はGitHubで公開しているので参考にどうぞ。

https://github.com/fukamachi/.lem

lemのバージョン更新もRoswellでできます。

ros update lem

普段使い以外にも、 git config —global core.editor lem とかしておくとコミットメッセージをlemで書けるのでおすすめです。

Mackerelで家族のヘルスチェックをする

5月に入院して1ヶ月くらい療養していました。

健康にも気をつけないとな、と今更ながら反省しつつ、どうすれば健康管理ってできるのかなと考えてみています。

Fitbitログから学ぶ

一年半前からFitbit Charge 2で心拍数と睡眠時間を記録しています。運動量ではなく、主に睡眠時間を計測するためにつけています。

普段は計測するだけして結果を見ることはほとんどないのですが、「今日は頭が働かないな」というときにふとFitbitのダッシュボードを見ると「なんだ睡眠不足か」とかわかるので便利です。

人によって必要な睡眠時間は異なります。僕は週の平均睡眠時間が7時間を切ると体調が悪くなるようです。

入院中に思い立って過去のFitbitのデータをさかのぼって見返してみると面白いことが見つかりました。安静時心拍数が見事に入院まで右肩上がりで推移しています。

単純な心拍数だけだと歩くだけでも上がりますが、これは安静時心拍数。なにもしていないときの平均値です。

もともと自分は安静時心拍数68〜74を推移していたのですが、入院前に88まで跳ね上がっていました。

安静時心拍数が高すぎる場合は頻脈と呼ばれるようです。

頻脈で疑う鑑別疾患は血液疾患(貧血)、精神疾患(緊張、ストレス、不隠、不安)、代謝疾患(甲状腺機能亢進症、脱水)、発熱、呼吸器疾患(低酸素状態)、心疾患(頻脈性不整脈群、心不全、心筋炎:徐脈もあり)等々様々な状態で見られうる。

心拍数 - Wikipedia

要因はおそらく「貧血」か「ストレス」か「発熱」でしょう。

安静時心拍数は異常がなくても上下するのですが、一日の中で出社している時間は高く、家に帰ってくると下がります。

仕事中でも特に上がっている時間帯は会議中だったりして、会議中にストレスかかってるのだな、とか分析できます。

けれど、入院してから頻脈だったことがわかったところで遅すぎます。悪くなる前にこれを知れたらいいのに。

Fitbitの機能として心拍数のアラート通知はありません。

アラートといえばMackerelさん

そこでアラートといえば、と考えに上ったのがMackerelでした。

サーバー監視サービスのMackerelはメトリクスのグラフ化だけでなく閾値での警告通知をしてくれるはずです。そこにデータ投げればいいんじゃない?と思ってやってみました。

Fitbit Web APIを叩いてMackerelに流すだけの簡単なスクリプトを書いて、さくらVPSに設置してcrontabで5分おきにFitbit→Mackerelに心拍数などのデータを流す。

やってみた

↓僕 (Eitaro) の心拍数(左)と睡眠時間(右)

f:id:nitro_idiot:20180531224913p:plain

これは薬の副作用であまり寝られていないときのグラフです。

睡眠時間の折れ線が複数あるのは睡眠レベル別の時間です。Fitbitでは浅い睡眠、レム睡眠、深い睡眠、睡眠中の覚醒時間を計測できます。

f:id:nitro_idiot:20180802105949p:plain:w360

↓これは実際に来ているアラート画面。

f:id:nitro_idiot:20180531224914p:plain

meymao(妻)の睡眠時間アラートも来ています。妻もFitbit Alta HRをつけているので睡眠時間と心拍数を計測しています。

夫婦で普段からSlackを使っているので、MackerelのSlack IntegrationをつけるとSlackにも流れます。

これは5時間程度しか寝られなかったときの通知。

f:id:nitro_idiot:20180802105219p:plain:w360

睡眠レベルを使って熟睡できていないときもアラートが来るようにしています。

さすがに心拍数をSlackに流すとうるさいのでそちらはメールでアラートを飛ばしています。

まとめ

Mackerelのアラートは単純なしきい値だけでなく、過去10個の計測値の平均でアラートできたりします。ので、心拍数のスパイクで無駄にアラートが飛ぶのも抑制できます。

未解決のアラートが続いているときに再アラートする機能も便利です。

たとえば睡眠時間アラートで12時間後に再通知に設定すると夜9時ごろに再度睡眠時間のアラートがSlackに飛ぶので、「今日は早く寝なきゃ」というリマインドとして使えます。

Mackerelの難点は、高いってことでしょうか。プランが「無料」か「月額1800円」しかないです。

無料プランだと24時間しかデータが記録できないので1日1回の睡眠計測では1個しかデータ登録できず、グラフ化ができません。

かといって1800円を個人ユースでは高いな、と思うので間のプランが欲しいところです。

プロジェクト全体でリーダーマクロを有効にする

先日、弊社の新サービス「ポケペイ (Pocket Change Pay)」のランディングページが公開されました。

pay.pocket-change.jp

ポケペイは独自電子マネーを作れるプラットフォームです。プラットフォーム内で換金 (Exchange) もできる仕組みはポケチェらしさがあります。

去年転職して からCommon Lispで仕事してるとは言うけれども、具体的に何をしてるのか聞かれると言えないもどかしさがありましたが、これで言えます。これを作ってます。

APIなどサーバーサイドと、チャージ用端末のクライアントアプリにCommon Lispが使われています。

ポケペイの話はまたいつかするとして、今日は小ネタです。

Common Lispのリーダーマクロ

Common Lispには「リーダーマクロ」という機能があります。

リーダーマクロとは、プログラムのリード時に特定の文字に応じてフックして好きな処理を入れることができる機能です。フックする処理はCommon Lisp自身で書くことができます。これにより好きなシンタックスを作ることができます。

具体例をあげるとCommon Lispアノテーションを導入する「cl-annot」とか。

@export
(defun foobar ()
   ...)

@ という文字をフックして後に続くフォームと組み合わせてS式に展開します。

(export
  (defun foobar ()
    ...))

いわゆる「マクロ」というのはコンパイル時ですが、これはそれよりも早いパース時に実行される点が違います。

この cl-annot は、アノテーションの定義もすることができるので、軽量Webフレームワークの「Caveman2」にはルーティング用のアノテーションがあったりします。

@route GET "/"
(defun index ()
  (render #P"index.tmpl"))

@route GET "/hello"
(defun say-hello (&key (|name| "Guest"))
  (format nil "Hello, ~A" |name|))

マクロでも同様の「機能」はできますが、「修飾」という意図を明確にするという意味で気に入って使っています。理由の詳細は昔書いた記事をご覧ください。

blog.8arrow.org

ASDFシステム全体で共通のreadtableを使う

このリーダーマクロは使いようによって便利ではあるのですが、いちいちファイルの先頭で (syntax:use-syntax :annot) とか書かないといけないのが面倒です。使うときにも、「このファイルでannot有効になってたっけ…」と確認しないと使えません。

これは特にパッケージごとにファイルを分割する package-inferred-system と相性が悪いです。

そもそもreadtableのようなシンタックスに関わるようなものは、プロジェクトメンバーの全員の合意が必要なものですし、ファイルごとにシンタックスを変えたいという需要も少ないように思います。

そこで、ASDFシステム全体でcl-annotが有効になった共通のreadtable使うようにすればいいんじゃね?と思ってやってみました。

ASDF :around-compile

 (defsystem "pokepay-server"
   :class :package-inferred-system
   :version "0.1"
   :author "Pocket Change, Inc."
   :description "Pokepay Project API & Admin site."
   :depends-on ("pokepay-server/boot"
                "cl-syntax")
+  :around-compile (lambda (thunk)
+                    (uiop:symbol-call :cl-syntax :%use-syntax :annot)
+                    (uiop:symbol-call :cl-syntax :%use-syntax :interpol)
+                    (funcall thunk))
   :in-order-to ((test-op (test-op pokepay-server/tests))))

:around-compile 内で cl-syntax:use-syntax しているだけです。上記の例ではついでにinterpolも有効にしています。

こうしておけばASDFのシステム内のファイル全部で自動的にアノテーションと文字列インターポレーションが有効になります。

まとめ

リーダーマクロをASDFシステム全体で有効にする方法を紹介しました。実際に弊社のアプリケーションで使っています。

ゆくゆくはCL21みたいにハッシュリテラルとか正規表現リテラルとかも有効にしていったら面白いかもしれません。

戦略家としてのリードエンジニア

先日THE PREDATORSのライブのためにZepp DiverCityに行った。

軽い気持ちで来たのだがチケットは完売。来場者は想像以上に多く3500人くらいはいたのではないかというほどの盛況だった。

入場してからまだ始まらないステージを眺めている間にも一同、テンションはやや高め。ガヤガヤとした空間で、後ろから一緒にきた仲間と楽しげに話す女性たちの声が聞こえてくる。

彼らは近隣の県から来たのか、昼に巡ったのであろう東京の名所について話をしていた。

「初めてちゃんと東京を観光したー」
靖国神社とか近くまで行くことはあっても入ることなんてなかったもんねー」
「なんか銅像あった!」
「うん、なんか銅像あった。誰の像だっけ?」
銅像あったしその像の名前も見たけど、なんて名前だったか思い出せない(笑)」

それを聞きながら僕は、それは幕末の長州の兵学者の大村益次郎ですね、と声をかけたい衝動に駆られたが、その日の僕の目的はライブであって、歴史に疎い女性陣に大村益次郎の人となりを語り伝えることではなかった。益次郎さんごめん。

大村益次郎。旧名は村田蔵六

蔵六は幕末の兵学者として、「戦術」と「戦略」を明確に分類して考えることができた異質の人間だった。

「戦術」と「戦略」

 蔵六の最終講義は、
「タクチーキのみを知ってストラトギーを知らざる者は、ついに国家をあやまつ」
 という主題のもとにおこなわれた。タクチーキと蔵六が発音しているのは戦術のことであり、蔵六はこれを戦闘術と訳している。ストラトギーは戦略――蔵六は将帥術と訳していた。

「戦術」と「戦略」はどう違うのだろう。

戦術は敵と相対したときに敵を倒すための技術である。剣術や砲術は当然そうだし、軍をいかに動かすかもこれに含まれるだろう。

一方、戦略はもう少し大きい視座で戦いを図る術だ。自軍の周りの地理を知り、時勢を見て、政治を行って、戦いを有利に導く。

最初に聞いたときはぼんやりと、そういう区分もあるか?とわかったような顔で読み流していた。具体的にどのような例があるかは、幕府が品川台場に築いた砲台についてのエピソードがわかりやすい。

「江川先生の品川台場は、戦術的なものにすぎない」
 と蔵六がいうのは、そこである。敵艦が台場すれすれに近づいてきてくれてはじめて砲が発射できるわけで、そういう間ぬけな軍艦はおるまい。それに艦砲の射程がどんどんのびているということを考えていない証拠に、砲台の砲がいかにも小さい。砲というものがいっさい発達しないという前提のもとに江川先生が設計したとしかおもえない、と蔵六はいうのである。

戦略的な視座に基づいたものでなければこういった間ぬけな策を打ってしまうことになる。

自分は戦略をわかっているか?

ふむふむ、と村田蔵六の話に関心しつつ本を閉じて、ふっと自分のことを振り返ってみた。

自分は戦略をわかっているだろうか?

僕はプログラマとして様々な会社に所属してきた。そこではできる限り良いプログラムを書くことでプロジェクトに貢献してきた。Common Lispのライブラリを多く作ってオープンソースで公開してきた。

これらの今までの活動はそれなりに評価されているとは思う。けれども、これらのどれを取っても「戦術」でしかない。

プログラムを書く、ということがそもそも戦術である。良いプログラムを書くのはプログラマにとって期待されていることではあるだろう。しかしそれとプロジェクトが成功するかどうかは別だ。

自分はプロジェクトの成功のために具体的な「戦略」を立てたことがあるだろうか?

いやいやそれは一介のプログラマの仕事ではなく上層のマネージャーの責務だ、という意見もあるかもしれない。けれど、組織にとってそんな無責任な戦術家にどれほどの価値があるだろう。

優秀なプログラマは凡人の10倍も20倍もの生産性があると言われる。それは確かに価値があることだ。しかし、戦場で100人や200人の敵兵を破ったからと言って自軍が戦に敗れては意味がない。

戦略家として生きる

ポケットチェンジに入社して1年が経った。

雇われた僕の役職はリードエンジニアである。ただのエンジニアではない。プロジェクトをリードし、成功に導くことを期待されている。

僕はCommon Lispの技術力を買われて雇用されたのは間違いないだろうが、雇われたのがLisp書きという戦術家ではないというのはなかなか期待が重たい。まあ勝手な責任感かもしれないけれども。

去年は30歳の誕生日を迎える節目の年だった。僕もプログラマとして次のステージに上がるべきときなのかもしれない。

そんなことを考え、今はポケットチェンジで新サービスの成功のために戦略家としてフルコミットを続けている。

僕には目標がある。

日本中で使われるサービスを作ること。そしてそのサービスがCommon Lispで動いていること。

求人

いつか僕が関わったプロダクトを紹介する機会もあるでしょう。

もし一緒にポケットチェンジで働くことに興味がある方はご連絡ください。

E-mail: eitaro.fukamachi@pocket-change.jp